MIFJ’s Newsletter - Week 28, 2025

vol.3 価格と信頼の調整

『MIFJ’s Newsletter』は、毎週お届けするコーヒー業界のニュースレターです。

世界の動きや現場の声を手がかりに、成功を共謀するための問いと視点をお届けします。


Insights of the Week

Cマーケット、ついに290セント割れ

ここ数週間の激しい値動きを経て、アラビカ種の先物価格がついに290セントを下回りました。ほんの数ヶ月前には420セントを超えていたことを思うと、かなりの落ち込みです。

バイヤーにとっては「買いやすくなって良かった」と思えるかもしれませんが、実際はもう少し複雑。今回の下落は、市場が落ち着いたからではなく、投機マネーが抜けて不安感が広がっていることの表れです。

今回の下落がなぜ起きたか、復習をすると…

  • 投資家が売りに走っている:
    ファンドなどの大口投資家が、利益確定のために持っていた買いポジションを手放しています。その売りが価格を押し下げている感じです。

  • ブラジルの収穫見通しが良さそう:
    2025–26年のブラジルの収穫は豊作になりそう、という見通しが出ていて、実際のデータはまだこれからなんですが、すでにその期待感が市場に影響しています。

  • ホルムズ海峡は今のところ静か:
    中東情勢は不安定ながら、物流が止まるような深刻な事態にはなっていないので、「しばらくは大丈夫かも」という安心感が出ています。

  • 需要がちょっと弱め:
    多くの国でロースターが仕入れを減らしたり、注文を後ろ倒しにしたりしています。小さな事業者の閉店も増えていて、全体として需要がやや落ち着いている印象です。

  • 経済の逆風が続いている:
    物価高や金利の影響で、消費者も企業も慎重モード。新しいリスクを取りにくい空気感が続いています。

日本のコーヒー事業者が考えておきたいこと

この価格下落、「コーヒークライシスが終わった!」という話では全然ありません。

むしろ生産者──特に小規模農家にとっては収入が減ることを意味します。日本のインポーターやロースターにとっても、今はリアクションではなく冷静な判断と計画が大事なとき。

  • ロースターにとっては、契約内容や価格設定を見直す良いタイミングかもしれません。

  • インポーターは、この下落が長く続くと決めつけず、慎重に判断するのがよさそうです。たとえば、コロンビアの収穫遅延や、ベトナムの気候リスクといった問題はまだ進行中です。

  • 小売の現場では、消費者の動きや為替のプレッシャーも引き続き無視できません。

2026年を見据えた調達計画を立てているなら、今こそサプライチェーンを再確認する時期です。

「信頼関係」の話を少しだけ

今回の価格高騰と下落を通じて、いろんな意味で「関係性」のもろさが見えてきました。

Cマーケットが400セントを超えたとき、いろんなことが起きました:

  • バイヤーが契約をキャンセル、

  • 生産者が出荷を止める

  • 支払い条件が変わったり、無視されたり

  • 長年のパートナー関係がピリついた

  • 中にはそのまま終わってしまった関係も…

そして今、価格が下がるなかで、「信頼」のツケが返ってきています:

  • 誰が約束を守ったのか、誰が裏切ったのか、生産者はちゃんと覚えています

  • 取引を切られたロースターは、新しい仕入先を探し始めています

  • 短期利益を追った輸出業者は、声をかける相手がいなくなっているかも…

Caravelaのアレハンドロがポッドキャストで言っていたとおり、「こういう時」は必ず来る、と。そしてまさに今、それが現実になっています。これは価格の調整というだけでなく、信頼の調整でもあるのだと思います。日本のコーヒー業界は、誠実さと長期的な視点で世界から信頼されてきました。だからこそ今こそ、その強みを再確認し、それを軸に動くタイミングです。ちゃんと向き合ってきた人たちは、これからの市場の変化の中で、きっと強く立ち続けられるはずです。

Peace Love and Peanut Butter

Lee


Biweekly Feature -1st Pour of Alejandro Cadena-

今週のMap It Forward Japanでは、ラテンアメリカで最も信頼されている生豆エクスポーターのひとつ、Caravela CoffeeのCEO アレハンドロ・カデナ氏による、必見のシリーズを特集します。

この5回シリーズは、今年1月に初公開されたもので、2025年がコーヒー業界にとってなぜ“転換点”になるのかについて、アレハンドロ氏の視点から深く語られています。

シリーズでは、世界的なプレッシャー、業界内のステークホルダー同士の連携の必要性、そしてこれまで以上にスピード感を増す市場の変化について掘り下げています。

アレハンドロ氏は一切オブラートに包まず、率直に語っており、生産者、インポーター、ロースター、カフェオーナーのすべての皆さんにとって、考えさせられる内容と具体的なヒントが詰まった内容になっています。

シリーズの各エピソードはこちら:

  1. コーヒー業界に2025年、変化がやってくる

  2. 2025年のコーヒー業界を動かす大きな力

  3. 2025年のコーヒー業界、何が起きるのか

  4. コーヒーサプライチェーンにおけるステークホルダーの連携 

  5. 2025年のコーヒー業界を占う

今週は、特に日本の皆さんに向けて、このシリーズを改めてじっくり見直していただきたいと思っています。来週は、アレハンドロ氏が語った視点や予測が、実際に今の市場でどう動いているのかを深掘りしていく予定です。お楽しみに。


虫の眼と鳥の眼

コーヒー業界で日々働いていると、つい“虫の眼”ばかりで物事を見てしまいがちです。ここでいう虫の眼とは、目の前の現場や業務にフォーカスするミクロな視点のこと。お客様への一杯、在庫の動き、焙煎の微調整など、現場での細やかな対応に集中するのは、とても大切なことです。

ただ一方で、「この業界は今どこへ向かっているのか」「自分たちの立ち位置はどう変化しているのか」といった問いに向き合うには、“鳥の眼”、つまりマクロな視点も欠かせません。市場全体の動きやグローバルなトレンド、価格変動の背景など、広い視野で俯瞰することで、日々の判断にも深みが出てきます。

たとえば最近では、Cマーケットの価格が大きく動いています。こうした変動は、半年ほどの時間差をもって日本の生豆買い付け価格に影響すると言われています。この遅行性を意識して、「半年後にどう動くべきか?」をシミュレーションしてみるだけでも、仕入れや在庫の判断は変わってくるはずです。価格が上がりそうなら今のうちに在庫を確保する、逆に下がる見通しなら様子を見る。そうした柔軟な選択肢が自然と生まれてきます。

とはいえ、日々の業務に追われていると、鳥の眼を持つのは簡単なことではないですよね。だからこそ、情報のアンテナを高く張り、自分なりの信頼できる情報源を持っておくことが、意思決定の質を大きく左右してきます。MIF Japan も、そんな情報源のひとつとして活用していただけるよう、日々発信を続けていきます。

Peace, Love, and Peanut Butter
Keisuke


このニュースレターは、9月末までをプレリリース期間とし、日本のコーヒーコミュニティの皆さんからの反応やフィードバックを集めています。もし少しでも価値を感じていただけたら、ぜひお友達やお知り合いにもシェアしてください。今後の取り組みの方向性を考えるうえで、皆さんの声がとても大切です。ご意見やご質問があれば、Instagramやメールでいつでもお寄せください。