MIFJ’s Newsletter - Week 27, 2025
vol.2 揺れる市場で、軸を持って動く
『MIFJ’s Newsletter』は、毎週お届けするコーヒー業界のニュースレターです。
世界の動きや現場の声を手がかりに、成功を共謀するための問いと視点をお届けします。
Insights of the Week
なぜコーヒー価格はまた下がっているのか?
ここ最近の大きな乱高下を経て、アラビカ種の先物価格はまた300セント台に近づいてきました。ついこの前まで420セントを超えていたことを考えると、かなり大きな調整です。
今回の下落には、いくつかの要因が絡んでいると見られます:
投機筋の売り逃げ:
ポッドキャストでも触れましたが、ヘッジファンドなどの投資家が「まだ上がる」と見て買いを入れていたものの、ここにきて利益確定や損切りの動きが加速。それが連鎖的に市場全体へと波及している可能性があります。ブラジルの天候が予想より良好:
先週は「霜が降りるかも?」という予報で価格が一瞬上がりましたが、今のところ霜は発生していません。2025–26年の収穫見通しも今のところ順調、という楽観的なムードが広がっています(実際どうかは、収穫が終わってみないと分かりませんが)。ホルムズ海峡の物流が当面は安定:
地政学的なリスクは依然高いものの、「いますぐ物流が止まる」といった懸念は少し和らいでいます。ただし、情勢は不安定なので油断は禁物です。需要の弱さ:
世界中のロースターが仕入れに慎重になっており、カフェの閉店も増加傾向。その影響で、買い控えや仕入れのタイミングの後ろ倒しが起きているようです。世界経済の逆風:
インフレや金利の高さに加えて、一部地域では家庭でのコーヒー消費も鈍化。企業も個人も財布のひもを締めており、全体的にリスクを避けるムードが強まっています。
注意点:
今回の価格下落は「コーヒークライシスが終わった」ことを意味するものではありません。投機的な資金が市場から抜けつつあるだけで、現場では依然として深刻な課題が山積みです。たとえば、コロンビアの収穫遅延、ベトナムの供給不透明感、各国の物流不安、人手不足、気候変動──いずれも解決の糸口はまだ見えていません。
今後の動向については、@mapitforwardjapan のSNSでも随時発信していきますので、ぜひフォローしてチェックしてみてください。
Biweekly Feature -2nd Pour
ピート・リカタとのシリーズを振り返って──今、私たちはどこにいるのか?
今年の初め、私たちはメルボルンに拠点を置く Caffeine Control Coffee の共同創業者であり、2013年のワールド・バリスタ・チャンピオンでもあるピート・リカタさんと、5回にわたるポッドキャストシリーズをお届けしました。
収録当時、ピートさんはカフェイン量に着目した新しいブランドを立ち上げたばかり。すでに複雑で飽和気味なこの業界で、あえてその角度から勝負するというのは、かなり挑戦的な一手でした。
このシリーズでは、以下のようなテーマを掘り下げました:
2025年のコーヒー業界の現状
競技会の意味の変化
ブランド立ち上げに「情熱」以上が求められる理由
カフェイン消費のトレンド
新しい時代におけるビジネスづくりとは?
収録当時も「市場が不安定だね」と話してはいましたが、まさかここまで激しく揺れるとは正直予想していませんでした。その後、価格の乱高下が続き、世界各地でロースターの撤退が相次ぐようになりました。まだ頑張っている事業者もいますが、消費者の動きは明らかに変わり、業界全体に漂っていた“自信”も、少しずつ弱まっているように感じます。
それでも、ピートさんが語ってくれたメッセージは、今も色あせていません。「リスク」「レジリエンス(回復力)」「意味のあるものを築く」といったキーワードは、むしろ今の方が深く響いてきます。当時から「2025年にブランドを立ち上げるのはリスクが高い」と話していましたが、今ではなおさら、「意図を持ち、価値観を定め、知識と戦略、ある程度の資金、そして市場のリアルな感覚」を備えてスタートすることの重要性が高まっています。もはや「とりあえず始めて、あとはなんとかなるでしょ(Fake It Till You Make It)」というやり方は、とても危ういものになりつつあります。
まだこのシリーズを観ていない方は、ぜひ今のタイミングでチェックしてみてください。すでに観たことがある方も、「この数ヶ月で何が変わったか」「逆に、何が変わってないのか」という視点で見直してみると、新しい気づきがあるかもしれません。
シリーズの各エピソードはこちら:
ご意見やご質問があれば、SNSのコメントやこのメールへの返信でぜひ教えてください。
コーヒー業界におけるリーダーシップ
私はリーダーシップの専門家ではないので、理論を語るつもりはありません。ただ、前回取り上げたようなコーヒークライシスのような局面では、この複雑で大きな課題に真正面から向き合い、道筋を示すリーダーや組織の存在が欠かせないことを強く感じています。ピートさんのシリーズでは「コーヒー業界には、全体を導くような明確なビジョンやフレームワークを持ったリーダーシップが欠けている」という指摘がありました。皆さんはどう感じられたでしょうか。
今は、情報も選択肢もあふれる時代。少し検索すれば、ロールモデルや成功の型のようなものがいくらでも見つかりますし、AIに頼ればある程度のことは対応できるようになってきました。しかしだからこそ、何かをあえて「捨てる」と決め、意思と覚悟を持って選択することのハードルは、以前よりも高くなっていると感じます。成功に絶対の法則はありません。金融市場なんてその象徴です。私自身、新卒ですぐに金融市場と向き合う経験をしたのですが、この道何十年というプロでも、市場に潜むすべてのリスク要因を読み切ることはできないという現実に衝撃を受けたのを今でも覚えています。結局は、限られた情報と時間のなかで、自分で腹を決めて動くしかない。そしてその結果は、社会情勢や運、タイミングにも大きく左右されます。
だからこそ、「選ぶ」という行為には意思と覚悟が要ります。自分ひとりの選択でさえそうなのに、誰かを巻き込んで動くとなれば、なおさらです。(もちろん、失敗にはある程度のパターンがあり、MIF Japanとしては、そのような失敗を回避するための引き出しをできる限り提供していきたいと考えています。)
ピートさんのシリーズを振り返って強く感じたのは、リーダーシップとは他人を導く前に、まず自分自身をどう導くかに尽きるのではないかということです。自分という一番身近で、一番難しい存在にどう向き合うか。そこからすべてが始まるように思いました。
Peace, Love, and Peanut Butter
Keisuke
このニュースレターは、9月末までをプレリリース期間とし、日本のコーヒーコミュニティの皆さんからの反応やフィードバックを集めています。もし少しでも価値を感じていただけたら、ぜひお友達やお知り合いにもシェアしてください。今後の取り組みの方向性を考えるうえで、皆さんの声がとても大切です。ご意見やご質問があれば、Instagramやメールでいつでもお寄せください。