MIFJ Newsletter - Week 32, 2025
vol.6 コーヒー業界で進む静かな再編
『MIFJ’s Newsletter』は、毎週お届けするコーヒー業界のニュースレターです。
世界の動きや現場の声を手がかりに、成功を共謀するための問いと視点をお届けします。
Insights of the Week
日本のコーヒー業界に合併・統合の波は来るのか?
いま、世界のコーヒー業界──コマーシャルもスペシャルティも含めて──では、統合の兆しが見え始めています。もしかすると、それはすでに静かに進行しているのかもしれません。マーケットサイクルにおいて「統合」とは、経済的なプレッシャーの中で小規模な事業者が閉業したり合併したりすることで、市場が再編されていく現象です。その隙を突いて、大手企業や資金力のある企業が市場シェア、資産、サプライチェーン、顧客などを手に入れていきます。結果として、業界内のプレイヤーが減り、力の集中が進み、産業構造そのものが大きく変わっていきます。
現在のコーヒー市場では、価格の不安定さ、運営コストの上昇、サプライチェーン全体での人手不足、そしてスペシャルティとコモディティの間で変化する需要構造など、統合が進むには十分すぎるほどの要因がそろっています。すでにその兆しを肌で感じている人もいれば、まだ気づいていない人もいるかもしれません。ですが、生産者、輸出業者、輸入業者、ロースター、カフェオーナー、そしてその業界で働くすべてのコーヒープロフェッショナルにとって、統合がどのように進むのかを理解しておくことは非常に重要です。それは、この変化の中で生き残れるかどうかを左右する鍵になるからです。
統合の兆し:注目すべきサイン
1.ひっそりと閉店が増えている
公式な発表もなく静かに店を畳むケースや、「事業再編」といった名目で実質的な撤退が起き
ています。特に体面を重んじる文化圏では顕著です。
2.合併・(M&A)の増加
ゼロから構築するよりも、ブランド力や顧客基盤、物流網、立地などを理由に、大手が小規
模事業者を買収する動きが進んでいます。
3.供給契約の売却
経営難の事業者が、将来の供給契約を資金力のある企業に売却するケースも見られます。
4.商品の多様性が減少
独立系の輸入業者やロースター、カフェが減ることで、個性が薄れて画一化が進みます。
5.市場シェアの異動
統合が進むと、資本力や金融アクセス、スケール可能なインフラを持つ企業に有利な構造
が生まれていきます。
なぜ日本市場では特に注意が必要なのか?
日本のコーヒー市場には、他国とは異なる独特の構造があります。コマーシャル市場では4社の巨大企業が市場を支配する一方で、スペシャルティ市場は、ほぼすべてが小規模な独立系ロースターやカフェで成り立っています。中規模のプレイヤーがほとんど存在しないのが、日本市場の特徴です。この構造上、次のようなリスクが浮かび上がります:
今のところ、多くの独立系事業者は世界的な価格変動の影響を強く感じていないかもしれませんが、それが“無風”を意味するわけではありません。
生豆価格の上昇は、通常6〜12か月のタイムラグを経て日本にも波及します。
中規模の緩衝役がいないぶん、小規模事業者は影響を直に受けやすい構造です。
では、価格ショックが本格的にやってきたとき、日本のスペシャルティコーヒー事業者たちは踏みとどまることができるのか。それとも、ここでも閉店や統合が進んでいくのか?
その答えは、そう遠くない未来に明らかになっていくでしょう。
Peace, Love, and Peanut Butter
Lee
Biweekly Feature -1st Pour Felipe Croce and Angel Barrera
2025年、やっぱり「波乱の年」に?
今年のはじめ、ブラジルのFAF CoffeesのFelipe Croceと、コロンビアのBelcoのAngel Barreraと一緒に配信した5回シリーズの中で、「2025年は、コーヒー業界にとって過去一番不安定な年になるかもしれない」──そんな話をしました。
取り上げたのは、こんなテーマたち:
コーヒー価格が不安定になっている背景
気候、投機、物流の混乱がどう市場に影響しているか
Which parts of the supply chain were most at risk, and which might benefit.
あれからしばらく経ちましたが、事態は落ち着くどころか、むしろ加速しています。
価格は急に上がったと思えば下がり、また上がる。サプライチェーンの混乱も続いたまま。生産者も、商社も、ロースターも、みんなストレスを感じています。そんな中で、当時の会話でも出てきたもう一つの動きが、じわじわと現実になってきました。それが 「統合(Consolidation)」 です。価格の不安定さが続くと、体力のない事業者は市場から離れ、大きな会社に吸収されていく。そんな流れが起こります。
スペシャルティの現場で起こるかもしれない変化は、たとえばこんな感じ:
生産者が、キャッシュフローの早いコモディティ市場にシフトする
輸入業者や商社が合併したり、取引先を絞ってリスクを減らす
ロースターがSKU(商品数)を減らしたり、産地を限定する
そして日本では、この流れが特にインパクトを持つかもしれません。コモディティコーヒーは「ビッグ4」がほぼ独占する一方で、スペシャルティはごく少数の独立系輸入業者に支えられています。そのうち何社かでも統合が進めば、取り扱い産地のバリエーションは減り、小さなロースターにとっては仕入れ先や選択肢が狭まり、交渉力も落ちてしまうかもしれません。
そんな中で、FelipeとAngelが話してくれたメッセージは、やっぱり今も響きます。
「こんな時代を生き抜くには、“誰とつながっているか”、”どこに向かうかの戦略があるか”、そして“市場の大きな流れを見れているか”がカギになる。」
嵐が来るとわかっているなら、風に流されないように準備する。
今こそ、それぞれの立ち位置を見直すタイミングかもしれません。
シリーズの各エピソードはこちら:
マクロデータ、うのみにしてない?
今週のポッドキャストで、ゲストのFelipeが強めの一言を放ってます。「誰かが嘘をついてる」と。テーマは、世界のコーヒー生産量について。特にブラジルの数字に対して、現場の実感とレポート内容がまるで違う、って。これ、コーヒー業界に限った話じゃないんですよね。世に出ているデータやレポートって、全部“二次情報”。どんなに正しそうに見えても、それをどう読むか・どう使うかで、まるで意味が変わってきます。
実は私も昔、商社でマクロデータを分析して会社の方針を決める情報をまとめるような仕事をしてました。その経験で強く思ったのは、「数字は中立じゃない」ということ。立場が違えば、同じデータでも全然違う話になる。レポートの背景には、誰がその情報を出してるのか、どんな前提があるのか、そしてどんな目的で出されているのか。そこを読み解くのがすごく大事なんです。
ちょうど先週、アメリカで「雇用統計が政治的に操作された」っていうニュースが出て、トランプ大統領が関連局長の解任を求める事態にまでなりました。マクロ統計でさえ、こんなふうに“政治”と地続きなんですよね。
「もうマクロの数字なんて信じない!」って思う気持ち、わかります。でも、だからといって見なくなると、それはそれで危うい。大事なのは、「数字の行間を読むこと」。情報に振り回されるんじゃなくて、「あれ、この数字ってなんでこうなってるんだろう?」と立ち止まるクセをつけることが、今の時代、すごく大切だと思います。
現場の声と、表に出てくるデータ。その“ズレ”を見つける視点、持っておきたいですね。
Peace, Love, and Peanut Butter
Keisuke
このニュースレターは、9月末までをプレリリース期間とし、日本のコーヒーコミュニティの皆さんからの反応やフィードバックを集めています。もし少しでも価値を感じていただけたら、ぜひお友達やお知り合いにもシェアしてください。今後の取り組みの方向性を考えるうえで、皆さんの声がとても大切です。ご意見やご質問があれば、Instagramやメールでいつでもお寄せください。